農家 畔蒜伝さんインタビュー(前編)

「農業の可能性を引き出し、食卓を笑顔にする。」
食材には、農家さんの愛情や日々の苦労が詰まっていて、その食材を道の駅で受け取り、食卓で味わう営みは、まさにスローシティの理念を体現していると感じました。「地産地消」や「小規模経済圏」と言われるように、地域の中で人と人がつながることで、物やお金だけでなく、信頼や想いも循環していくのだと思います。今後、畔蒜さんが取り組む食育活動を通じて、子どもたちが農業や食の魅力に触れる機会が広がれば、農業は産業にとどまらず、人と地域をつなぐ文化として受け継がれていき、その環境こそ、地域の真の豊かさにつながるのだと感じました。
今回は、慶應義塾大学総合政策学部4年の蒲地陽太朗がインタビューを担当しました。

畔蒜 伝

畔蒜 伝(あびる・つたえ)さん
香取市栗源地区の農家。大学卒業後、東京のテレビ局にてニュース編集を担当。制作した情報への反響を直接実感したいという思いから退職し、未経験から農業の世界へ転身する。地域で栽培の少ないキャベツや白ナスなどを中心とした少量多品目栽培に取り組み、直売所や都内スーパーへ出荷。農協青年部などを通じた地域貢献や若手農家とのネットワークづくりにも精力的に活動している。

蒲地
本日のゲストは、香取市で農業を営まれている畔蒜伝さんです。まずは自己紹介をお願いいたします。

畔蒜さん
香取市の栗源地区で農家をしている畔蒜と申します。 農家になる前は、東京のテレビ局でニュース編集の仕事をしていました。しかし、自分が作ったニュースに対して世間の人々がどう感じたかという反応が、なかなかダイレクトには分かりづらい環境でした。 それよりも「自分が作ったものを直接お客さんに届けて、その反応を実感したい」という思いが強くなり、テレビ局の仕事を思い切って辞めました。大学でも経営学部におり農業の知識はゼロでしたが、未経験から農家に挑戦することに決めました。

「『自分のやる気』がお客さんにダイレクトに伝わる魅力」

蒲地
異色の経歴ですね。数ある仕事の中で、なぜ「農家」を選ばれ、現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

畔蒜さん
野菜作りは、手を抜けば虫食いだらけで誰も欲しいと思わないものができますが、丹精込めて頑張れば良いものができ、お客さんに買ってもらえます。天候などの影響はあっても、自分の頑張りや情熱がそのまま商品に反映され、お客さんに伝わる点に惹かれました。
現在は、年間の時期に合わせてキャベツ、ナス、ピーマン、里芋など、様々な野菜を少量多品目で栽培しています。主な出荷先は地元の道の駅や、東京の一部のスーパーです。

周りと同じものは作らない。後発だからこその生存戦略

蒲地
同じ土地で様々な種類の野菜を作られているのですね。

畔蒜さん
栗源地区はサツマイモやニンジン、ジャガイモの栽培が盛んな地域です。最初は近所の農家さんにアルバイトへ行き、長年の技術とノウハウで美味しい野菜を作っている姿を目の当たりにしました。 ゼロから始めた自分が同じ作物を作っても、絶対に先輩方には追いつけないと感じました。だからこそ、周りが作っていない作物(キャベツやナスなど)にあえて挑戦し、一定の収穫量を目指すという戦略をとりました。

一番のやりがいは、お客様からの『美味しい』の声

蒲地
農業をやっていて、特に楽しいと感じる瞬間やアピールポイントは何ですか。

畔蒜さん
一番嬉しいのは、朝収穫した野菜を道の駅に並べている時、買い物に来たお客さんから直接「美味しかったよ」「お兄さんのは新鮮だね」と声をかけてもらえることです。
うちでは普通の紫色のナスのほかに「白ナス」も作っているのですが、まだ珍しい白ナスを「前回食べて美味しかったからまた買うね」とリピートしてもらえた時は本当に嬉しいですね。お客さんの生の声を聞けることが、大きなやりがいになっています。

作っている人の顔を知ることで深まる『地域の豊かさ』

蒲地
お仕事を通じて、香取市の豊かさを実感する瞬間はありますか。

畔蒜さん
自分が作ったものだけでなく、地元の農家さんが作ったサツマイモを食べた時に「やっぱり美味しいな」と感じます。 全国にサツマイモの産地はありますが、その土地に暮らし、作っている農家さんのこだわりや人柄を知っているからこそ、より一層美味しく感じられるのだと思います。こうした人との結びつきこそが、地域の豊かさだと実感しています。

地域の一大イベント『栗源のふるさといも祭』

畔蒜さん
また、栗源地区には毎年開催される「栗源のふるさといも祭」という大きなイベントがあります。 焼き芋の無料配布や地元農家の直売ブース、飲食店などが並び、多くの人で賑わいます。年に一度、地域全体で農業にスポットを当てて盛り上げるイベントがあることは、農家にとっても地域を知ってもらうきっかけとなり、非常にありがたいと感じています。

買い出し用カート持参!熱気あふれるイベントの裏側

蒲地
いも祭りには、農協青年部のお手伝いとしても参加されているそうですね。印象的なエピソードはありますか。

畔蒜さん
毎年、道の駅のブースで果物などの売り子をしているのですが、常連のお客さんは大きな買い物用カートを押して来られます。 新鮮な野菜や芋がたくさん並ぶことを分かっているベテランの方々で、「これを持っていかないと買いきれない」と毎年大量に買っていかれます。1年ぶりに再会するお客様も多く、地域と人々がつながる素晴らしい場だと実感しま
す。

横のつながりを生み出す『農協青年部』と仲間たちの存在

蒲地
畔蒜さんが所属されている「農協青年部」とはどのような組織なのでしょうか。

畔蒜さん
地元の若い農家が集まり、地域の農業課題を話し合って解決を目指したり、全国各地へ視察・研修旅行に行って新しい栽培法や売り方を学んだりする組織です。
私は中学生の頃から地元を離れて全寮制の学校に通い、東京で就職したため、戻ってきた時は同世代の知り合いが一人もいませんでした。「若い人も少ないのでは」と最初は不安でしたが、農協青年部や青年会議所、新規就農者のセミナーなどに参加する中で、志を同じくする若手農家の仲間と出会い、前向きに挑戦できる環境が整っていきました。

前編では、畔蒜さんが未経験で農業の世界飛び込んだ経緯や、独自の工夫、そして地域やお客さんとのつながりの中に感じられる香取市の魅力について伺いました。 後編では、香取市でのスローな暮らしや今後の展望、スローシティへの想いについてさらに詳しくお話を伺います。

インタビューの模様を収録したポッドキャストはこちらからお聞きください。

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