「道の駅には、まだまだ大きな可能性がある。」今回のインタビューを通して、そのことを強く実感しました。お話を伺ったのは、道の駅くりもと紅小町の郷の駅長・畔蒜司さん。これまで私は、道の駅を「道中でひと休みする場所」というイメージで捉えていました。しかし、畔蒜さんのお話から見えてきたのは、それとは異なる姿でした。現代の道の駅は、人が目的地として訪れ、地域の農家や事業者、住民をつなぐ拠点として、新たな価値を生み出す存在になりつつあります。地域資源を生かした商品開発やイベントの企画、さらには人と人をつなぐコミュニティづくりまで。その背景には、地域を俯瞰して構想し、多様な人々を巻き込みながら形にしていく畔蒜さんの考え方と実践がありました。
本インタビューでは、香取市・栗源という地域だからこそ生まれる挑戦や、地域資源を生かしたまちづくりの可能性について伺いました。そこにはスローシティに通ずるヒントもありました。今回は、慶應義塾大学総合政策学部4年の蒲地陽太朗がインタビューを担当しました。
畔蒜 司(あびる・つかさ)さん
1955年生まれ。農家として地域活動に携わった後、民間企業で国内外の勤務やフィリピン現地法人の社長を経験。2021年より道の駅くりもと紅小町の郷代表取締役・駅長を務め、地域資源を生かした道の駅づくりを推進している。
蒲地
今回は、道の駅くりもと紅小町の郷を運営する畔蒜司さんにお話を伺います。本日はよろしくお願いいたします。まずは自己紹介をお願いいたします。
赤字だった道の駅を、黒字へ。
畔蒜さん
現在、道の駅くりもと紅小町の郷の運営会社で代表取締役を務めています。2020年6月に取締役に就任し、2021年6月から社長として施設の運営に携わっています。
私が就任する直前の2019年、この地域は大型台風の被害を受けました。施設では9日間停電が続き、冷蔵設備は停止し、ニジマスの養殖池も酸素供給が止まって全滅するなど、大きな被害を受けました。その結果、約1,900万円の赤字となりました。
さらに翌2020年からは新型コロナウイルスの影響で来場者が減少し、赤字が続く厳しい状況となりました。しかし、従業員一人ひとりの努力によって、2025年にはようやく黒字化を達成しました。
現在は、その黒字を一時的なものではなく、継続的な経営へとつなげていくことを目標にしています。
農家として育ち、地域活動に打ち込んだ青年時代
蒲地
これまでどのような人生を歩まれてきたのでしょうか。
畔蒜さん
私は1955年生まれで、農家の長男として育ちました。高校卒業後は家業であるスイカ農家を継ぐことになりました。
その頃から青年団や消防団、農業青年クラブ(4Hクラブ)など地域活動に積極的に参加しました。地域をより良くするために若者が力を合わせることを大切にしており、その活動は市町村から県、そして全国青年団へと広がり、日本青年館の評議員も務めました。
地域の発展や若者の生活向上について考え続けた経験は、現在の仕事にも大きく生きています。
フィリピンで学んだ「地域への恩返し」
畔蒜さん
30代で栗源へ移り住み、プラスチックフィルムを製造する会社へ就職しました。その後、2007年から2015年までフィリピンの関連会社へ赴任し、現地法人の社長も務めました。
フィリピンではカトリック文化が根付いており、年末には寄付やボランティア活動が盛んです。地域や困っている人へ少しでも還元するという考え方が社会に浸透していました。
その文化に触れたことで、「地域に支えられているなら、自分も地域へ返していく」という考え方がより強く自分の中に根付きました。

「駅長」の仕事は、人と会うこと
蒲地
現在の駅長としてのお仕事は、どのようなことをされているのでしょうか。
畔蒜さん
施設全体の運営が仕事ですが、一番大切にしているのは「人と会うこと」です。
この道の駅は、生鮮野菜やさつまいもを中心とした施設なので、一つ一つの商品利益は決して大きくありません。そのため、生鮮販売だけではなく、新しい価値を生み出していく必要があります。
その一つとして取り組んできたのが補助事業の活用です。補助金を活用して、芋神社の整備や多言語案内板の設置、外国語対応の情報発信などを進めてきました。直接利益を生むものではありませんが、多くの人に道の駅を知ってもらい、訪れてもらうための投資です。
また、私は予定がなければ休むこともありますが、人に会う予定があれば必ず出勤します。
新しい人と出会い、情報を得ること。その情報を従業員へ共有し、今後の施設運営に活かしていくことが、自分の最も大切な仕事だと思っています。
道の駅くりもとの魅力は「体験型」
蒲地
芋神社や多言語案内板など、他の道の駅にはない取り組みが数多くあります。その中でも、道の駅くりもとの魅力はどのような点でしょうか。
畔蒜さん
一番の特徴は「体験型の道の駅」であることです。
さつまいも掘りや落花生掘り、じゃがいも掘りなどの収穫体験に加え、ニジマス池やザリガニ釣りなど、実際に体験できるコンテンツを用意しています。
道の駅は「買い物をする場所」というイメージが強いですが、それだけではなく、「経験を持ち帰る場所」でありたいと思っています。今後も体験の幅をさらに広げていきたいと考えています。
幻の神社から生まれた「芋神社」
蒲地
芋神社も非常に印象的でした。どのような経緯で誕生したのでしょうか。
畔蒜さん
栗源地区では30年以上続く「栗源のふるさといも祭」があります。
実は祭りの期間だけ現れる「幻の芋神社」があり、祭りが終わると解体されていました。
「せっかくなら一年中見られる神社にしよう」と考え、道の駅に常設の芋神社を設けました。
現在では多くの方が写真を撮る人気スポットになっています。狛犬ならぬ「狛くりちゃん」というキャラクターも設置しており、多くの方に楽しんでいただいています。
地域だけでなく、遠方からも訪れる人が集う場所
蒲地
普段はどのようなお客様が来られるのでしょうか。
畔蒜さん
高速道路や県道を利用して訪れる方が多く、地域の方だけでなく遠方からのお客様も多くいらっしゃいます。
また、市民農園の利用者や口コミで知って来られる方、ツーリングの途中に立ち寄るライダーの方々も多く見られます。
体験を目的に訪れる方も多く、「また来たい」と思っていただける場所になっていることを嬉しく感じています。
前編では、畔蒜さんのこれまでの歩みと、道の駅くりもと紅小町の郷が目指す「体験型の道の駅」としての魅力について伺いました。
後編では、道の駅の未来や地域との関わり、スローシティへの想いについてさらに詳しくお話を伺います。
