前編に引き続き、道の駅くりもと紅小町の郷 駅長・畔蒜司さんにお話を伺います。
後編では、道の駅くりもと紅小町の郷の名物である芋祭りや、畔蒜さんが感じる香取市・栗源地区の魅力、そして道の駅のこれからについて伺います。

籾殻で焼き上げる、唯一無二の焼き芋
蒲地
私たち学生チームも以前、芋祭りにお邪魔しました。とても美味しい焼き芋をいただいたのですが、事前の準備やこだわりについて教えていただけますか。
畔蒜さん
芋祭りでは、米を脱穀した後に出る籾殻を山のように積み、そこに火を入れて一晩かけて燻炭を作ります。その燻炭の中にサツマイモを入れて焼き上げるんです。
燻炭で焼くことで、芋に燻製のような香りが入ります。そこに独特の味わいや香りが生まれるんですね。
夜に火を入れて、一晩中火の管理をし、翌朝に芋を入れて昼ごろに焼き上げる。現在は学生の皆さんにも協力してもらいながら行っています。
道の駅でも11月から年明けにかけて、朝4時、5時ごろから籾殻に火をつけて焼き芋を作ることがあります。お客様からは「懐かしい香りがする」「子どもの頃を思い出す」と喜んでいただいています。
この燻製の香りがする焼き芋を目当てに来てくださる方もいて、「今まで食べたことがない」と言っていただけることもあります。
香取市の豊かさは、大地の力にある
蒲地
お仕事を通じて、香取市の豊かさを実感した瞬間はありますか。
畔蒜さん
私はこの地域に長く住んでいるので、特別に「これがすごい」と感じるというより、日常の中に豊かさがあると感じています。
やはり一番は、大地の豊かさです。サツマイモをはじめ、いろいろな野菜が育つのは、大地に力があるからです。
香取市というと、水郷地帯として米のイメージが強いかもしれません。しかし、この地域の土には、米だけでなく、さまざまな作物を生み出す力があります。
特にサツマイモは、比較的痩せた土地でも育つ作物です。かつて栗源地区には、この地域の核となるようなサツマイモの品種がありませんでした。そこで、「西に鳴門金時があるなら、東には女王様のような芋を作ろう」という思いから品種改良されて生まれたのが紅小町だと、先輩方から聞いています。
紅小町は生産が難しく、病気に弱かったり、形が整いにくかったりするため、大きく広がることは簡単ではありませんでした。それでも、豊かさを求めて立ち上がり、サツマイモを地域の核にしようとした先人たちの心意気がありました。
その思いがあったからこそ、今の紅東、紅はるか、シルクスイートなどの品種にもつながっているのだと思います。紅小町は、地域の豊かさの原点の一つだと感じています。
畔蒜さんがすすめる栗源の魅力「中白清水」
蒲地
畔蒜さんだからこそ知っている、香取市や栗源地区の魅力を教えてください。
畔蒜さん
道の駅の入り口に、栗源周辺のマップがあります。その脇に散策用の小さなマップも置いてあります。
道の駅の裏手から里山へ下り、田んぼの縁を歩き、クラインガルテンの裏手から丘に上がっていく散策ルートがあります。その先に「中白清水」という湧き水があります。
詳しい由来までは分からないのですが、入り口には霊験あらたかという趣旨の言葉も添えられています。田んぼの端に湧き水があり、水が湧く音が聞こえるんです。
今は蛇口をひねれば水が出る生活が当たり前ですが、湧き水の音を聞きながら空を見上げる時間には、人の原点に近づけるような感覚があります。
人工物の多い生活の中で、自然の音に耳を澄ませる。そういう時間こそ、豊かさなのではないかと思います。

道の駅は、地域の推進役であり、販路であり、交流拠点
蒲地
畔蒜さんが考える道の駅の可能性や、今後挑戦してみたいことを教えてください。
畔蒜さん
道の駅くりもと紅小町の郷は、地域の推進役であるべきだと思っています。
道の駅には、都市部と地域をつなぐ交流拠点としての役割があります。また、地域の情報が集まり、発信される場所でもあります。
もう一つ大きいのは、少量生産者の皆さんに販路を提供することです。小さな規模で生産している方々が、自分たちの商品を販売できる場所として、この売り場を活用してもらいたいと思っています。
利益だけではなく、地域全体が豊かになっていくことが大切です。作ったものを売り、消費者に届け、その信頼関係の先にビジネスが広がっていく。その最初の接点に道の駅があるのだと思います。
また、近年は道の駅に防災拠点としての役割も求められています。私たちの施設は大きな防災機能を持っているわけではありませんが、大雨の際には低い土地に住む方が駐車場へ避難してくることもあります。今後、防災拠点としてどのような機能を付加していくかは、大きなテーマだと考えています。
さらに、一次産業に加工を加え、六次産業化していくことも重要です。農産物にひと手間加えることで商品価値を高め、生産者の物理的な豊かさや心の豊かさにつなげていきたいと思っています。
例えば、ブルーベリーの収穫体験では収穫しきれなかった実をジャムやアイスクリーム、シャーベットに加工しています。サツマイモについても、新しい商品の開発を進めています。
生鮮品は年によって価格が変動します。だからこそ、加工によって付加価値をつけ、安定した経営につなげていくことが必要です。それは道の駅の経営を支えるだけでなく、生産者の販路を守ることにもつながります。
香取市を一言で表すなら「自分を成長させる原点」
蒲地
香取市を一言で表すと、どのような場所だと感じますか。
畔蒜さん
香取市は、20年前に一市三町が合併してできました。佐原には小野川沿いの小江戸の街並みがあり、小見川は利根川を渡れば鹿島の工業地帯にも近い地域です。
一方で栗源は、空港から近い場所にありながら、佐原や小見川と比べると、外に誇れるものが少ないように見えるかもしれません。
しかし、人の営みに差があるわけではありません。栗源には、風が吹けば土ぼこりが舞うような大地がありました。その自然に向き合い、農業技術を発展させ、暮らしを築いてきた人々の歴史があります。
私は、百姓をしていた頃の冬の北風をよく覚えています。寒い北風に背を向けて逃げるのではなく、その風に向き合う。その感覚が、自分にとって農業を続ける支えであり、エネルギーでした。
好きな言葉に「丹精」があります。努力が実を結ぶという意味です。農業は、努力しなければ結果がついてきません。人と一緒に進める仕事とは違い、一人で野菜と向き合うからこそ、シンプルに努力が問われます。
会社員として働いた経験もありますが、そこでは家族を守るために妥協しながら生きてきた部分もありました。今は、もっと自分をまっすぐにぶつけ、人としての豊かさを整えていきたいと思っています。
そういう意味で、この地域は自分を成長させる原点です。そこに関わることができている自分は、幸せなのだと思います。
8月からは新芋の季節へ
蒲地
このポッドキャストが配信される8月ごろに向けて、告知やPRがあれば教えてください。
畔蒜さん
8月からは、いよいよ新芋が出始めます。
この地域では旧盆にサツマイモをご先祖様へ供える習慣があり、その頃から需要が始まります。
また、6月から7月にかけてはブルーベリーの収穫体験があり、秋に向けてはサツマイモや落花生の収穫体験も始まります。さらに秋が深まれば、籾殻で焼く焼き芋も始まります。
これからの季節は、道の駅くりもと紅小町の郷にとって楽しみが目白押しです。ぜひ期待して、お越しいただきたいです。
人と腕を組み、前に進んでいきたい
蒲地
最後に、聞いてくださっている皆さんへメッセージをお願いします。
畔蒜さん
まずは、聞いてくださってありがとうございます。
私は実年齢では71歳ですが、まだまだ成長したいと思っています。人としてもっと伸びていきたい。その機会を与えてくれているのが、道の駅の生産者の皆さんやスタッフの皆さんです。本当に感謝しています。
これからは、皆さんと一緒に手を取り合い、もう一歩、二歩とステップアップしていきたいと思っています。
人はいつか年を取り、一人になり、世の中から消えていきます。それまでに、どれだけ多くの人と腕を組み、前に進もうと誓い合えたか。それが人の価値や評価につながるのではないかと思っています。
今の立場を与えてくれている皆さんへの感謝を忘れず、聞いてくださる皆さんともさらに輪を広げながら、前に進んでいきたいです。
蒲地
第1回目にふさわしい、刺激的で貴重なお話を伺うことができました。畔蒜さん、本日はありがとうございました。
畔蒜 司(あびる つかさ)
1955年生まれ。農家として地域活動に携わった後、民間企業で国内外の勤務やフィリピン現地法人の社長を経験。2021年より道の駅くりもと紅小町の郷代表取締役・駅長を務め、地域資源を生かした道の駅づくりを推進している。
インタビューの模様を収録したポッドキャストはこちらからお聞きください。
